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大津地方裁判所 昭和59年(行ウ)4号 判決 1990年7月30日

原告 松田国男

被告 長浜税務署長

代理人 小久保孝雄 田原恒幸 永松徳喜 鳴海雅美 益本吉啓 ほか二名

主文

一  原告の請求のうち、被告が昭和五七年七月二日付でした原告の昭和五六年分所得税更正処分中税額一一三万四四〇〇円を超える部分及び五万六七〇〇円を超える過少申告加算税賦課決定処分の取消を求める請求部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五七年六月二二日付でなした、昭和五四年分以降所得税の青色申告の承認の取消処分及び同年七月二日付でなした処分のうち、原告の昭和五六年分所得税更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  主文三項と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、銘木加工業を営む者であるが、昭和五六年分(以下、係争年分ともいう)の所得税について、別表1「確定申告」欄記載のとおり、被告に対して確所申告した。

2  これに対し、被告は、昭和五七年六月二二日付での昭和五四年分以降所得税の青色申告の承認の取消処分(以下、青色取消処分という)及び同年七月二日付での別表1「更正処分」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件更正、決定処分といい、青色取消処分と合わせて本件各処分という)をした。

3  そこで、原告は被告に対し、昭和五七年七月二〇日異議申立をしたところ、被告は同年一〇月二〇日付でこれを棄却したため、原告は更に同年一一月一九日国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五九年三月一六日付で青色取消処分については右審査請求を棄却する旨の、本件更正、決定処分については左のとおり一部取消し、その余は棄却する旨の裁決をなし、その裁決書を原告方に送達した。

取消す税額合計  六万六〇〇〇円

うち本税の額   六万二九〇〇円

うち過少申告加算税額 三一〇〇円

4  しかしながら、本件各処分には次のような違法がある。

(一) 本件各処分は、滋賀県民主商工会(以下、民商という)の会員である原告に対し、民商に加盟していることへの嫌がらせとその脱退を迫ることを目的として行われた政治的違法目的を有するものである。

(二) 被告の部下職員は、原告への昭和五六年分の所得税の税務調査(以下、本件調査という)に当り、調査理由の開示をせず、その調査方法も相当性の範囲を逸脱したものだった。

(三) 白色申告の場合でも理由の附記は必要であるというべきであるところ、被告は、本件更正処分を理由の附記なくして行った。

(四) 原告は、本件調査に当り帳簿書類を閲覧可能な状態にしていたので、被告の部下職員においては原告の帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令の定めるところに従って正しく行われていること(所得税法一四八条一項、以下、同法を法という)を確認できたにも拘らず、これを怠り(青色取消処分関係)、また、原告の所得につき実額を把握でき、被告は実額に基づく課税が可能であったにも拘らず、推計課税を行った(本件更正、決定処分関係)。

(五) 被告は、原告の事業所得金額を過大に認定した。

5  よって、原告は被告に対し、請求の趣旨のとおり本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1ないし3の事実のうち、原告が銘木加工業を営む者であることは否認し、その余の事実はすべて認める。

2  同4、5の主張はいずれも争う。

3  なお、本件課税処分の経緯は、別表1記載のとおりである。

三  被告の主張

1  原告は、肩書地において「松田カーペンター」なる屋号で木工業を営む者である。

2  本件各処分に至る経緯(推計の必要性等)

(一) 被告は、原告の昭和五四年分ないし同五六年分の所得税調査及び昭和五五年分更正請求に対する調査(以下、所得税調査等という)のため、部下職員二名(以下、職員らという)をして昭和五七年五月一七日、同月二六日、同月二八日、同年六月三日、同月七日及び同月一四日の計六回にわたり、原告事務所に赴かせ、原告に対して、事業内容の説明及び青色申告に係る帳簿書類の提示を求め、調査に応じるよう説得したが、原告は、いずれのときもこれに応じなかった。

(二) なお、右五月二六日の調査時には、原告は無関係の第三者数名の立会いを強要し、かつテープレコーダーによる録音を始めたことから、職員らは原告に所得税調査等には第三者の立会いと録音は必要がないこと及びこのような状態では調査ができないことを説明して第三者の退出と録音の中止を求めたが、原告は右求めに応じなかった。そのうえ、原告は、同日職員らが滋賀相互銀行(現在はびわこ銀行)米原支店(以下、銀行という)において調査をしていたところ、彦根、長浜民商事務局長西沢と共に突然調査の場に現われ、「誰の許可で調査しているんや」、「財産権の侵害だ」などといい、職員らの調査を妨害した。

(三) また、右六月一四日、職員らは、原告事務所に臨場し、原告に対し帳簿書類の提示を求め、調査に応じるよう説得したが、原告からは何ら帳簿書類の提示がなかったので、被告から原告に対する注意書を読みあげて原告に手渡し、帳簿書類の提示を促したが、原告は右注意書により指定した同月一五日に至っても帳簿書類の提示を一切行わなかった。

(四) 以上のように、職員らは、六回にわたり原告に調査に協力するように説得したにも拘わらず、原告は昭和五四年分ないし同五六年分の帳簿書類を一切提示しないばかりか、取引内容や事業内容などについて具体的な説明も行わず、職員らの調査に協力しなかったので、被告は原告の右態度をもって所得税法一五〇条一項一号に該当するものと認め、昭和五七年六月二二日原告の昭和五四年分以降所得税の青色申告の承認の取消処分を行うと共にやむを得ず行った原告の売上先等の調査結果に基づいて、推計課税の方法により原告の係争年分の総所得金額を算定したところ、その申告額と相違していたので、同年七月二日本件更正、決定処分を行った。

(五) 以上の次第で、本件調査手続に違法はなく、かつ推計の必要性がある。

3  原告の違法主張への反論

(一) 政治的違法目的関係

被告は、昭和五七年三月一二日付でされた原告の昭和五五年分の更正請求についてその適否を確認する必要があったこと及び被告において昭和五四年、同五五年分について先の調査をしたものの、本件調査時点で、未だ更正等の処理をしていなかったため、係争年分の申告内容の確認と併せて調査したものであり、原告の主張は失当である。

(二) 本件調査時の調査理由不開示等関係

法二三四条に基づく質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実施の細目については、実体法上の特段の定めがないのであるから、客観的にみて質問検査の必要があり、かつ相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度に止まる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられているものであり、また、右質問検査は調査対象者の資産、営業上の秘密に立入るのみならず、取引先たる第三者の右秘密事項にも調査が及ぶ恐れがあること、更に税理士の資格を持たない第三者の立会いは、その具体的態様いかんによって税理士法違反の余地があることを考慮すれば職員らが原告の要求した民商事務局員らの立会いの下での調査を拒否したことは、税務職員の裁量に委ねられた権限の範囲内の行為であって、これをもって社会通念上相当な限度を逸脱した行為とすることはできないのであるから、原告の主張は失当である。

(三) 理由附記関係

青色申告に係る更正処分には、法一五五条二項により更正通知書にその理由を附記しなければならないとされているが、白色申告の場合の更正処分には理由附記は不要であるところ、本件では、昭和五四年分以降の青色申告書提出の承認を取消されているのであるから、本件更正通知書に理由附記をしていなくても本件更正処分は適法であり、原告の主張は失当である。

(四) 青色取消処分関係

法一五〇条一項一号(青色申告承認取消事由)に所定の帳簿書類の備付け等の意味は、質問検査権を行使する税務署の職員が帳簿書類の提示及び閲覧を求めた場合には、これに応じ、当該職員において右帳簿書類の内容を任意に確認し得るような状態に置くべきことを当然に含むものと解すべきであるところ、本件では原告は所得税調査等のために臨場した被告職員の再三にわたる要請及び被告からの注意書の手渡しにも拘らず、あえて帳簿書類の提示をしなかったものであるから、かかる帳簿書類の不提示が法一五〇条一項一号に該当することは明らかであり、青色取消処分は適法であり、原告の主張は失当である。

4  原告の総所得金額

係争年分の原告の総所得金額(事業所得金額)は、別表2記載のとおりで、その計算根拠は以下のとおりであるところ、原告の総所得金額の範囲内でなした本件更正、決定処分(但し、裁決後の金額)は適法である。

(一) 売上金額二一七四万八五五八円

原告の確定申告時における決算額二一〇〇万五八〇七円(A)、及び別表3の1、2記載のとおりの捕捉漏れ分八六万一九六〇円とその他の捕捉漏れ分一万八八〇〇円の合計八八万〇七六〇円より原告が過剰に申告した売上金一三万八〇〇九円を差引いた金額である七四万二七五一円(B)の合計額(A+B)である。

(二) 必要経費等(別表2の(2)、(3))合計一一三七万七四五九円

以下<1>ないし<6>(なお、<2>ないし<6>は特別経費である。)の合計額である。

<1> 売上原価、一般経費合計九三一万七〇八三円

売上原価、一般経費は、売上金額に別表3記載の同業者の経費率四二・八四%(売上原価、一般経費の合計額を売上金額で除したもの)を乗じて算出したものである。

<2> 雇人費二四万五〇〇〇円

右は原告の確定申告時における決算額である。

<3> 建物減価償却費二八万七一〇〇円

建物減価償却費の係争年分の計算根拠は、別表4記載のとおりであるところ、原告は二階部分を居住用に供しているので、事業専用割合を五〇%とした。

<4> 地代家賃二万円

右は原告が前田新吾に支払った地代である。

<5> 利子割引料一一〇万八二七六円

右は原告が昭和五五年七月に銀行から二五〇〇万円を借入れ、工場兼居宅を建設した借入金のうち居宅建設相当部分は家事費であり、それに対応する支払利子は必要経費とならないため、支払利子総額二二一万六五五一円に建物の事業専用割合五〇%を乗じた金額である。

<6> 事業専従者控除四〇万円

右は原告の妻である松田春子に係る事業専従者控除額である。

(三) 事業所得金額一〇三七万一〇九九円

右(一)より(二)を差引いた金額である。

5  推計の合理性

(一) 同業者(経費率関係)の選定基準

被告は、原告と事業内容が類似する同業者の平均経費率を用いて原告の係争年分の事業所得金額を推計したが、右推計に当り採用した同業者は原告の住所地を管轄する長浜税務署と、滋賀県下の大津、草津、水口、近江八幡、彦根及び今津の各税務署並びに滋賀県下に隣接する京都府下の上京、中京など一三の税務署合計二〇税務署管内において、木工業を営んでいて、青色申告により所得税確定申告書を提出している者で、以下の条件のすべてに該当する者を選定した。

<1> 木工業以外の事業を兼業していないこと

<2> 原材料を仕入れていて売上原価率が四〇%以下であること

<3> 売上金額が一〇〇〇万円から四二〇〇万円までであること(原告の右売上金額の上限二倍、下限半分の範囲)

<4> 年間を通じ、継続して事業を営んでいること

<5> 不服申立又は訴訟係属中でないこと

なお、同業者の抽出は大阪国税局長の前記各税務署長に対する通達に基づき機械的に行われたものであって、抽出に当たって恣意の介入する余地はない。

(二) 原告との類似性と平均経費率

右基準によって選定した同業者は一一名であり、これら同業者の業種、営業形態、営業規模等の点で原告との類似性があり、その平均値は個々の同業者の差異を包括して一般化するに足るから、平均経費率による推計には特段の事情のない限り合理性がある。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論(実額の主張)

1  被告の主張1の事実のうち、原告が木工業を営む者であることは否認し、その余の事実は認める。

原告は、銘木加工業を営む者である。

2  同2の事実のうち、被告部下職員らが被告主張のころ計六回にわたり原告事務所宅を訪問したことは認め、その余の事実は否認又は争う。

昭和五七年五月二六日には、職員らは目前に帳簿書類が準備され自由に調査できるにも拘わらず何らの調査をしようとせず数分間ほど立会人の排除を求めたのみで調査を放棄して立去った。

3  同4の事実について

(一) 冒頭部分は争う。後記のとおり原告の事業所得の明細は、別表5記載のとおりである。

(二) (一)中原告の確定申告時における売上金額の決算額が二一〇〇万五八〇七円であること、別表3の1記載の内保製作所の八一〇〇円とその他分一万八八〇〇円との合計二万六九〇〇円の捕捉漏れがあること、及び原告が過剰に申告した売上金は一三万八〇〇九円であることは認め、その余は争う。

なお、係争年分の売上金額が原、被告間で相違するのは、被告が発生主義を採るのに対し、原告が現金主義を採ることもその一因となっている。

(三) (二)中<2>、<4>は認め、その余は否認又は争う。

右<3>建物減価償却費、<5>利子割引料につき、係争年当時建物に居宅部分はなく、原告は昭和五八年七月一五日に二階のうち半分に居宅部分を設けて入居したものである。従って、右<3>建物減価償却費、<5>利子割引料ともその事業専用割引を一〇〇%とみるべきである。

(四) (三)は争う。

4  同5の事実について

推計の合理性はすべて争う。

(一) 同業者の選定基準

原告は、銘木加工業を営む者であり、被告のいう同業者は主に木工業者であるから、原告の同業者たり得ず、同業者の選定基準は不合理である。また、木工業といっても、その内容には原告のように一般経費の多いもの、反対に特別経費の多いものなど各種の業態の違いがあり、それぞれ経費率が異なるはずである。

従って、そのような業態及び経費率の違いを考慮せず、平均経費率で計算することは、原告のように一般経費率の高い者には妥当しない。

(二) 右のとおり、同業者の選定基準は不合理であり、原告の一般経費率は格段に高いのであるから、原告には被告のいう特段の事情がある。

5  被告の主張に対する原告の反論(実額の主張)

原告の係争年分の所得金額及びその明細の実額は別表5記載のとおりである。

五  原告の反論に対する被告の認否及び再反論

1  推計の合理性にかかる被告の再反論

推計課税をするために同業者の経費率の算定をする場合、各同業者の経費率に差があるのはむしろ当然のことであって、その平均値を求めるのが推計課税の目的である。同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は無視しうるものであって、納税者の個別的営業状況の如何はそれが当該平均率による推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、これを斟酌しないで良いものと解すべきである。

被告は、前記のとおりの基準で同業者を選定しており、推計の基礎的要件に欠けるところはない以上、営業状況(経費率)の個別的特性は同業者率の中に包摂され、平均化しているものである。

ところで、被告は、類似同業者をある程度広く抽出しているが、これは原告の税務調査に対する非協力的な態度、すなわち、原告が自ら事業形態、営業規模等を明らかにしなかったこと、銘木加工業に限定すれば極限られた同業者数となりかえって平均値の普遍性を欠くことになることによるものであり、被告の設定した抽出基準はなお合理性を保っているものというべきである。

2  原告の実額の主張に対する認否及び被告の再反論

(一) 認否

原告の実額の主張事実のうち、別表5記載の項目14、給料二四万五〇〇〇円、同17地代家賃二万円については認め、その余の事実は不知又は否認する。

(二) 被告の再反論

(1) 実額反証の証明の程度

原告が実額の主張をするのであれば、その主張する実額が真実の所得額に合致することを「合理的な疑いを入れない程度に立証する必要がある」と解すべきであって、その収入金額がすべての取引先からの総収入金額であり、かつ経費の額がその収入と対応する経費であることをも立証しなければならないのである。即ち、実額反証を主張する原告は、<1>その主張する収入及び経費の各金額が存在すること、<2>その収入金額がすべての取引先からのすべての収入金額であること、<3>その経費がその収入と対応するもの(必要経費)であること、の三点を証明しなければならず、それらの証明がない限り、原告主張の実額計算によることはできず、被告主張の推計計算の方法による事業所得金額の認定がなされるべきである。

(2) 原告の実額主張の不成立

ア 原告は、京商連シート式簡易帳簿(<証拠略>であるが、以下簡易帳簿という)を原告の実額主張を裏付ける証拠として提出しているが、簡易帳簿の記載内容は信用できない。

即ち、その記載は原告の妻任せであり、簡易帳簿には随所に訂正された箇所があり、係争年分(昭和五六年分)の生活費につき、一、三、五月はその支出がないように記載されていたり、他の証拠(<証拠略>の預金通帳)との対比において売上計上漏れが散見されたりしており、その不自然さあるいは不正確性からして簡易帳簿の記載内容は信用できない。

イ 売上金額

原告は、本人尋問の際、単発の少額な取引先については伝票を作成せず取引先も不明である旨を供述したが、被告の求釈明に対しては「加工代」について取引先ごとの少額な金額についても詳細に釈明している。

そうすると、右釈明はいいかげんなものか、保存の売掛帳等の帳簿書類に基づいてなされたものかのどちらかである。現に、本訴では、必要経費に関する資料は、少額なものを含めて、そのほとんどが提出されているにも拘わらず、売上金額に対する請求書及び領収書等の原始資料が原告から未提出であることを考えると、原告主張の売上金額にはかなりの遺漏があるものと推測される。

そして、被告の主張4(一)で述べたとおりの売上金額の捕捉漏れ(原告からすれば売上計上漏れ)があったことは原告も認めるところであり、原告の係争年分の決算書に記載された売上金額が原告の売上金額のすべてであることについて、合理的な疑いを入れない程度まで立証されているとは到底いえず、原告の実額主張には根拠がない。

ウ 経費

所得税法四五条は、家事関連費等は事業所得の金額の計算上必要経費に算入しないものと規定しているところ、実額主張を行う原告はその主張する経費が総収入金額に対応するものであること、即ち、その主張する経費のすべてが原告の業務遂行上必要なものであることを立証しなければならず、また、各経費項目の具体的内容を収入金額と関連させて明らかにするとともに、主張の経費の額の中から家事関連費等を減算しなければ原告の事業所得を実額で計算することはできないのである。

右の見地から以下、原告主張の経費について詳論する。

(ア) 租税公課

原告主張分のうち、固定資産税相当分については、仮にそれが原告の工場兼居宅にかかるものであったとしても右建物の二階部分は居住の用に供されていたから、その部分の金額は必要経費に当たらず、不動産取得税についても同様である。また、自動車税についても家事使用対応部分は必要経費から控除するべきである。

(イ) 荷造運賃

荷造用品として何を購入したか不明であり、原告の事業に関連して支出されたとの立証はない。

(ウ) 水道・光熱費、旅行・交通費

全額が事業上の必要経費であるとの立証はない。

(エ) 通信費

家事関連費等が含まれているはずであるところ、その割合は不明であり、全額が事業上の必要経費であるとの立証はない。

(オ) 広告宣伝費

具体的支出内容が不明であり、原告の事業に関連して支出されたとの立証はない。

(カ) 接待交際費

原告の事業遂行上の関連性が立証されておらず、必要経費とは認められない。

(キ) 損害保険料・修繕費(自動車関係費用)

右(エ)と同旨である。

(ク) 消耗品費

このうち、作業服等の購入費用には、女児服等が含まれていることが判明したところ、これは必要経費であるはずがなく、このように原告は家事上の経費と事業上の経費とを何ら区別することなく原告の支出したものはすべて事業上の必要経費に算入する態度を示しているのである。そして、その他の消耗品費を含めて検討しても、結局全額が事業上の必要経費であるとの立証はない。

(ケ) 福利厚生費

家事上の経費が含まれており、結局全額が事業上の必要経費であるとの立証はない。

(コ) 利子割引料(工場兼居宅建設用の借入金関係)

右建物の二階部分が居宅であったことは建物調査書(<証拠略>)により明らかであり、居宅建設相当部分は家事費となり、それに対応する支払利息は必要経費にならない。仮に、原告主張のとおり、係争年の翌年以後に初めて居宅の用に供したものであったとしても、右建物の二階部分は本来居宅の用に供するものであって、たまたま内装工事が間に合わなかった一時的に資材等を置いていたに過ぎないというべきであり、また、そこが事業の用に供されていたと認定できる客観的証拠もないのであるから原告の主張は失当である。

(サ) リース料

原告は、機械のリース料であるとして領収書(<証拠略>)を提出しているが、リース契約であることを明らかにする契約書等が提出されない以上右領収書だけではその支払が係争年分の必要経費となるリース料であるのか、減価償却の計算をすべきである機械の購入代金であるか不明であるところ、原告主張金額を直ちに係争年分の必要経費と認定することは適当ではない。

(シ) 雑費

原告主張の雑費のうち、取立手数料の三万五五〇〇円以外の支出については、領収書が未提出であったり原告の事業遂行上必要な支出であるとは認められないものであるため、必要経費とは認められない。

(ス) 減価償却費

建物分について、原告は、事業専用割合を一〇〇パーセントとして計算しているが、右建物の二階部分は前述のとおり居住の用に供しているのであるからそれに対応する部分は、必要経費とは認められない。

機械等分について、原告は青色申告決算書以外に取得日、取得価額を明らかにする領収書等の客観的証拠は提出しないのであるから、減価償却費の計算はできないというべきである。

(セ) 専従者給料

原告は、昭和五七年六月二二日付で昭和五四年分以降の所得税の青色申告の承認を取消されているのであるから、係争年分において妻松田春子に対する専従者給料は必要経費として認められるべきではなく、これに代えて事業専従者控除四〇万円を事業所得から控除すべきである。

以上のとおり、原告が実額主張する経費のすべてが原告の事業遂行上必要な支出であるとの立証はされておらず、家事費に相当する経費が多数含まれているにも拘らず、適正な処理がなされていない以上原告の事業所得を実額で計算することはできないのである。

(3) 以上のとおり、原告の実額主張はいずれも理由がなく、原告の係争年分の所得金額を実額で計算できないところ、これを被告のした合理的な推計方法でもって計算した結果は前述のとおりであるから、その範囲内にある本件更正、決定処分(裁決後の金額)は適法である。

六  被告の再反論に対する原告の再々反論(実額主張関係)

1  実額反証の証明の程度関係

被告は、原告の記帳ミス、記帳漏れを指摘することにより原告の実額主張を争うが、中小零細業者の記帳能力からすれば、一部ミス、記帳漏れを生ずることは当然であり、むしろそれらの存在はその帳簿の信憑性を物語るものともいえる。

2  原告の実額主張の不成立関係

(一) 生活費等の支出額が少額であるのは原告が家計を切り詰めた結果であり、支出額が月によりアンバランスなのは店主借りを行ったりした結果である。

(二) 売上金額

原告が売上金額に関する原始資料を提出しないのは簡易帳簿により証明十分であり、被告の反面調査によっても確認されているからであり、また、すべての取引先につき請求書及び領収書を作成しておらず、作成分についても集金のため切り離すなどして一部紛失しており現存する資料を提出しても意味がないからである。

原告の言い分は、四3(二)のとおりであるが、原告の売上金額は、別表5のそれより一一万一一〇九円減となる。

なお、これに関連して内保製作所関係で、八一〇〇円が経費として計上漏れになっていたので、別表5の「2」(仕入)は八一〇〇円の増となる。

(三) 経費

(1) 中小零細業者の記帳能力を前提にすれば、被告の要求は余りに厳格であり、その実情を無視した苛酷なものである。

(2) 租税公課

工場兼居宅の二階部分は、当時居住の用に供されていないこと前述のとおりである。

バイクを買い物に利用したことはあるので、その軽自動車税七〇〇円の半額である三五〇円については、経費から控除することとし、別表5の「3」(租税公課)は三五〇円の減となる。

(3) 荷造運賃

その明細は、各種ひも、ガムテープ、セロテープ、ポリシート等であり、完成品の梱包等に不可欠なものである。

(4) 水道・光熱費、旅行・交通費

ガス代は、家事関連分も含まれていたので、八万四〇五一円を経費から控除する。従って、別表5の「5」(水道・光熱費)は八万四〇五一円の減となる。その余の水道・光熱費、旅行・交通費はすべて業務に関連するものである。

(5) 通信費

すべて業務に関連するものである。

(6) 広告宣伝費

その明細は、年賀状、表の看板とリフトのネーム入れ分であり、当然必要経費と認められる。

(7) 接待交際費

すべて業務に関連するものである。

(8) 損害保険料・修繕費(自動車関係費用)

二台の自動車分であるが、すべて業務に関連するものである。

(9) 消耗品費

家事上の経費に該当する消耗品費二万二四二八円は、必要経費から除外する。従って、別表5の「12」(消耗品費)は二万二四二八円減の一八九万七一八五円となる。なお、消耗品費の内訳は、ガソリン代、作業服等、事務洋品、工具、金物、道具の修理代、部品代等であり、すべて必要経費に当たる。

(10) 福利厚生費

確かに、家事上の経費に該当する福利厚生費八万四七五五円も、必要経費に計上していたので、この分を必要経費から除外する。従って、別表5の「13」(福利厚生費)は八万四七五五円の減となる。

(11) 利子割引料(工場兼居宅建設用の借入金関係)

工場兼居宅全部が係争年当時業務用として使用されていたのであるから全額が必要経費となる。

(12) リース料

契約書の一部は提出している(<証拠略>)。

(13) 雑費

新聞代、溶接時の防眼用サングラス代、税務対策上の民商会費等であるが、すべて業務用の必要経費である。

(14) 減価償却費

建物分の事業専用割合は一〇〇パーセントであり、機械等分については、<証拠略>の提出により、その取得日、取得価額は明らかである。

(15) 専従者給料

青色取消処分は、取り消されるべきであるので、原告の妻春子に対する専従者給料は当然のことである。

以上訂正分を考慮すると、原告の所得は、三六七万〇〇九九円となる。

第三証拠 <略>

理由

(事実欄においても既に略称済みであるが、以下においても、書証については、例えば甲第一号証を甲一と表示し、更に人証については、証人の証言を証人と、原告本人尋問の結果を原告と表示し、かつ、書証の真正な成立については、その成立につき争いがないか弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる書証ばかりであるところ、その認定根拠の特定を省略し、例えば単に甲一とのみ表示することにする。)

一  請求原因1ないし3の事実(原告が係争年分の所得税について別表1「確定申告」欄記載のとおり確定申告したこと、被告が本件各処分をしたこと、原告の異議申立とこれに対する被告の棄却決定、原告の審査請求とこれに対する一部取消、一部棄却の裁決など)については、原告が銘木加工業を営む者であることを除き、当事者間に争いがない。

右争いのない事実と<証拠略>によると、本件課税処分の経緯は、別表1記載のとおりであることが認められる。

二  本訴一部却下の判断

そうすると、原告の請求のうち、本件更正処分中税額一一三万四四〇〇円を超える部分については、既に国税不服審判所長の裁決により取り消されているのであるから、重ねて本訴において取消を求める利益がなく、また、本件決定処分についても、同様の理由で五万六七〇〇円を超える部分については、本訴において取消を求める利益がないのであるから、結局、右各請求部分は却下を免れない。

三  そこで、以下、その余の請求部分について、本件各処分に原告主張の違法が存するか否かについて判断する(なお、説示の便宜上原告の違法主張の順序どおりには判断しない。)。

1  青色取消処分、推計課税の適否について

(一)  本件各処分に至る経緯(推計の必要性等)

<証拠略>によると、次の事実が認められ(ただし、以下において認定説示する事実の中には、事実欄記載のとおり、当事者間に争いのない事実も含まれているが、説示の便宜上特にその旨明示しないこととする。)、右認定に反する<証拠略>は前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 被告は、所得税調査等のため、職員らをして昭和五七年五月一七日、同月二六日、同月二八日、同年六月三日、同月七日及び同月一四日の計六回にわたり、原告事務所に赴かせ、原告に対して、事業内容の説明及び青色申告に係る帳簿書類の提示を求め、調査に応じるよう説得したが、原告は、いずれのときもこれに応じなかった。

(2) なお、右五月二六日の調査時には、原告は第三者数名(民商関係者)の立会いに固執し、かつテープレコーダーによる録音が始められたことから、職員らは原告に所得税調査等には第三者の立合いと録音は必要がないこと及びこのような状態では調査ができないことを説明して第三者の退出と録音の中止を求めたが、原告は右求めに応じなかった。そのうえ、原告は、同日職員らが銀行において調査をしていたところ、彦根、長浜民商事務局長西沢と共に突然調査の場に現われ、「誰の許可で調査しているんや」、「財産権の侵害だ」などといい、職員らの調査を妨害した。

(3) また、右六月一四日、職員らは、原告事務所に臨場し、原告に対し帳簿書類の提示を求め、調査に応じるよう説得したが、原告からは何ら帳簿書類の提示がなかったので、被告から原告に対する注意書を読みあげて原告に手渡し、帳簿書類の提示を促したが、原告は右注意書により指定した同月一五日に至っても帳簿書類の提示を一切行わなかった。

(4) 以下のように、職員らは、六回にわたり原告に調査に協力するように説得したにも拘らず、原告は昭和五四年分ないし同五六年分の帳簿書類を一切提示しないばかりか、取引内容や事業内容などについて具体的な説明も行わず、職員らの調査に協力しなかったので、被告は原告の右態度をもって所得税法一五〇条一項一号に該当するものと認め、青色取消処分を行うと共にやむを得ず行った原告の売上先等の調査結果に基づいて、推計課税の方法により原告の係争年分の総所得金額を算定したところ、その申告額と相違していたので、本件更正、決定処分を行った。

以上の事実によると、次のとおり青色取消処分は適法であり、推計の必要性があるものというべきである。

(二)  青色取消処分の適法性

法一五〇条一項一号(青色申告承認取消事由)に所定の帳簿書類の備付け等の意味は、質問検査権を行使する税務署の職員が帳簿書類の提示及び閲覧を求めた場合には、これに応じ、当該職員において右帳簿書類の内容を任意に確認し得るような状態に置くべきことを当然に含むものと解すべきであるところ、本件では原告は所得税調査のために臨場した被告職員の再三にわたる要請及び被告からの注意書の手渡しにも拘らず、あえて帳簿書類の提示をしなかったものであるから、かかる帳簿書類の不提示が法一五〇条一項一号に該当することは明らかであり、青色取消処分は適法であり、原告の主張は失当である。

(三)  推計の必要性

原告は被告の税務調査に非協力的態度を取り続けており、六回にもわたる税務調査への協力要請にも拘らず遂に原告所得の実額算定に必要な資料を被告に提示せず、従って、被告において原告の所得を実額算定することは不能であったのであり、公平な税徴収を計る立場にある被告が推計課税の方法を選択したことはやむを得なかったものと評価できるから推計の必要性はあるものというべきである。

(四)  推計の合理性

(1) 原告の業種

原告の業種につき、銘木加工業か木工業か争いがあるので、この点につき判断する。

原告の業種の認定は、その経営実態に即してされるべきところ、<証拠略>によると、原告は主として銘木加工を業とするが、二次的には家具製造などの木工を業とすることもあることが認められる。

そうすると、原告の業種はもともと広義の木工業であるといい得るし、以下認定のように同業者として木工業の選定をすることにより多数の業者の数値を平均化できる利点があるので(これに対し、原告の業種を銘木加工業と限定すれば、<証拠略>によると滋賀県内に他に一件、京都市内に一件ある位で業者の数が少な過ぎてその値を平均化しても有意義とはいえない弱点がある。)、被告が原告の業種を木工業と認定したことは合理性を有するものといえる。

(2) 同業者の選定方法

原告を木工業者と認定することが許されることは右(1)のとおりであり、これと<証拠略>によると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

被告は、原告と事業内容が類似する同業者(木工業者)の平均経費率を用いて原告の係争年分の事業所得金額を推計したが、右推計に当たり採用した同業者は原告の住所地を管轄する長浜税務署と、滋賀県下の大津、草津、水口、近江八幡、彦根及び今津の各税務署並びに滋賀県下に隣接する京都府下の上京、中京など一三の税務署合計二〇税務署管内において、木工業を営んでいて、青色申告により所得税確定申告書を提出している者で、以下の条件のすべてに該当する者一一名を選定した。

<1> 木工業以外の事業を兼業していないこと

<2> 原材料を仕入れていて売上原価率が四〇%以下であること

<3> 売上金額が一〇〇〇万円から四二〇〇万円までであること(原告の右売上金額の上限二倍、下限半分の範囲)

<4> 年間を通じ、継続して事業を営んでいること

<5> 不服申立又は訴訟係属中でないこと

なお、同業者の抽出は大阪国税局長の前記各税務署長に対する通達に基づき機械的に行われたものであって、抽出に当たって恣意の介入する余地はない。

(3) 原告との類似性と平均経費率

右基準によって選定した同業者は一一名であり、これら同業者の業種、営業形態、営業規模等の点で原告との類似性があり、その平均値は個々の同業者の差異を包括して一般化するに足るから、平均経費率による推計には特段の事情のない限り合理性がある。

(4) まとめ

以上の事実によると、推計の基準は合理性を有するものと認められるので、被告が前記認定の同業者の平均経費率を適用して、原告の事業所得金額を推計したことは適法である。

ところで、原告は事実欄四4の如く主張するが、推計課税をするために同業者の経費率の算定をする場合、各同業者の経費率に差があるのはむしろ当然のことであって、その平均値を求めるのが推計課税の目的であり、同業者間に通常存する程度の経費率の差異は無視しうるものであって、納税者の個別的経費率の如何はそれが当該平均率による推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、これを斟酌しないで良いものと解すべきである。被告は、前記のとおりの基準で同業者を選定しており、推計の基礎的要件に欠けるところはない以上、経費率の個別的特性は同業者率の中に包摂され、平均化しているものである。そして、本件全証拠によっても前記特段の事情は認められないものというべきである。

2  その余の原告の違法主張関係について

(一)  政治的違法目的関係

<証拠略>によると、被告は昭和五七年三月一二日付でされた原告の昭和五五年分の更正請求についてその適否を確認する必要があったこと及び被告において昭和五四年、同五五年分について先の調査をしたものの、本件調査時点で、未だ更正等の処理をしていなかったため、係争年分の申告内容の確認と併せて調査したものであることが認められる。

右認定に反する政治的違法目的関係の原告の主張に沿う<証拠略>は前掲証拠に照らし、そのままには措信できず、他に原告の右主張を認めるに足る証拠はない。

よって、原告の右主張は失当である。

(二)  本件調査時の調査理由不開示等関係

(1) 調査理由不開示の点につき、<証拠略>によると、昭和五七年五月一七日の一番最初の調査時において「所得税の調査に来た。」旨を原告に告知したうえ、係争年分の帳簿書類の提示を求めていることが認められ、右認定に反する原告は前掲証拠に照らし、そのままには措信できない。

よって、原告の右点にかかる主張は失当である。

(2) 調査方法の相当性につき、法二三四条に基づく質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実施の細目については、実体法上の特段の定めがないのであるから、客観的にみて質問検査の必要があり、かつ相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度に止まる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられているものであり、また、右質問検査は調査対象者の資産、営業上の秘密に立入るのみならず、取引先たる第三者の右秘密事項にも調査が及ぶ恐れがあること、更に税理士の資格を持たない第三者の立会いは、その具体的態様いかんによって税理士法違反の余地があることを考慮すれば職員らが前記認定のとおり原告の要求した第三者(民商関係者)の立会いの下での調査を拒否したことは、税務職員の裁量に委ねられた権限の範囲内の行為であって、これをもって社会通念上相当な限度を逸脱した行為とすることはできないのであるから、原告の右点にかかる主張は失当である。

(三)  理由附記関係

青色申告に係る更正処分には、法一五五条二項により更正通知書にその理由を附記しなければならないとされているが、白色申告の場合の更正処分には理由附記は不要であるところ、本件では、前記認定説示のとおり昭和五四年分以降の青色申告書提出の承認を適法に取消されているのであるから、本件更正通知書に理由附記をしていなくても本件更正処分は適法であり、原告の主張は失当である。

3  原告の事業所得金額の適否(事実欄違法主張(五))について

事業所得を別表2記載の明細に沿って認定する。

(一)  売上金額

(1) 原告の確定申告時における売上金額の決算額が二一〇〇万五八〇七円であることは当事者間に争いがない。

(2) <証拠略>によると、別表3の1、2記載の売上漏れ金額欄のとおりの売上漏れ(捕捉漏れ)八六万一九六〇円の存在が認められる(なお、内保製作所の八一〇〇円の捕捉漏れの存在は当事者間に争いがない。)。

(3) 別表3の1、2以外のその他分一万八八〇〇円の売上漏れ(捕捉漏れ)があること、原告が過剰に申告した売上金は一三万八〇〇九円であることは当事者間に争いがない。

(4) そうすると、売上金額は、二一〇〇万五八〇七円に八六万一九六〇円と一万八八〇〇円を加えた額から一三万八〇〇九円を差し引いた二一七四万八五五八円となる。

(二)  売上原価・一般経費

<証拠略>によると、同業者の経費率(売上原価、一般経費の合計額を売上金額で除したもの)は別表3記載のとおり四二・八四%であることが認められるところ、原告の売上原価・一般経費は右(一)の原告の売上金額に同業者の経費率四二・八四%を乗じた九三一万七〇八三円となる。

(三)  特別経費

(1) 雇人費

雇人費が二四万五〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

(2) 建物減価償却費

<証拠略>によると、原告は、昭和五五年七月二階建の工場兼居宅(一階が工場、二階が居宅)を二二〇〇万円で取得したこと、係争年(昭和五六年)当時二階を現実には居宅として利用していなかったが、本来二階は居宅用に建てられ、水の不便はあるものの居宅としての利用可能性がないわけではなかったことから事業専用割合は五〇%と認められたこと、「償却の基礎になる金額」は別表4の「1」の、「償却方法耐用年数(償却率)」は同「2」の、「算出減価償却費」は同「3」の各数値になることがそれぞれ認められる。

そうすると、建物減価償却費の額は、別表4記載の計算方法により、二八万七一〇〇円と認めるのが相当である。

(3) 地代家賃

地代家賃が二万円であることは当事者間に争いがない。

(4) 利子割引料

<証拠略>によると、原告は昭和五五年七月工場兼居宅建築資金として銀行から二五〇〇万円を借入れたこと、それに対応する係争年分の支払利子総額は二二一万六五五一円であることが認められるところ、前述のとおり工場兼居宅の事業専用割合は五〇%と認められた。

そうすると、必要経費となる利子割引料は支払利子総額二二一万六五五一円に事業専用割合五〇%を乗じた金額である一一〇万八二七六円と認めるのが相当である。

(5) 事業専従者控除

<証拠略>によると、原告の妻である松田春子に係る事業専従者控除額は四〇万円と認められる。

(四)  事業所得金額

事業所得金額は、右(一)(売上金額)より(二)(売上原価・一般経費)と(三)(特別経費)を差引いた一〇三七万一〇九九円となる。

(五)  原告の「実額の主張」に対する判断

ところで、原告は「実額の主張」をするところ、売上金額、特別経費については先に認定したとおりであるので、以下、主に「売上原価・一般経費」の実額の主張について検討する。

(1) 実額反証の証明の程度

当裁判所の見解は、被告の見解と同旨であり、その主張する実額が真実の所得額に合致することを「合理的な疑いを入れない程度に立証する必要がある」と解し、その収入金額がすべての取引先からの総収入金額であり、かつ経費の額がその収入と対応する経費であることをも立証しなければならないと解する。即ち、実額反証を主張する原告は、<1>その主張する収入及び経費の各金額が存在すること、<2>その収入金額がすべての取引先からのすべての収入金額であること、<3>その経費がその収入と対応するもの(必要経費)であること、の三点を証明しなければならず、それらの証明がない限り、原告主張の実額計算によることはできず、被告主張の推計計算の方法による事業所得金額の認定をせざるを得ないものと解する。

(2) 原告の実額主張の不成立

所得税法四五条は、家事関連費等は事業所得の金額の計算上必要経費に算入しないものと規定しているところ、実額主張を行う原告はその主張する経費が総収入金額に対応するものであること、即ち、その主張する経費のすべてが原告の業務遂行上必要なものであることを立証しなければならず、また、各経費項目の具体的内容を収入金額と関連させて明らかにするとともに、主張の経費の額の中から家事関連費等を減算しなければ原告の事業所得を実額で計算することはできないものというべきである。

右の見地から以下、原告主張の経費について検討する。

ア 租税公課

原告主張分のうち、固定資産税相当分については、仮にそれが原告の工場兼居宅にかかるものであったとしても右建物の二階部分は前記認定のとおり居住の用に供され得る可能性があったから、その部分の金額は必要経費に当たらず、不動産取得税についても同様である。また、自動車税についても家事使用対応部分は必要経費から控除するべきである。

イ 荷造運賃

荷造用品として購入したものが原告の再々反論のとおりの物であるとしても、本件全証拠によるもその全部が原告の事業に関連して支出されたとの立証はない。

ウ 水道・光熱費、旅行・交通費、通信費、広告宣伝費、接待交際費、損害保険料・修繕費(自動車関係費用)、消耗品費、福利厚生費、リース料、雑費については、本件全証拠によるもその全額が事業上の必要経費であるとの立証はなく、また、右各経費項目の具体的内容を収入金額と関連させて明らかにできていないものといわざるを得ない。

なお、減価償却費、利子割引料、事業専従者控除(原告のいう専従者給料)については、前記認定のとおりである。

(3) 以上の事実によると、必要経費等に係る原告の実額立証はなされていないものというべきであり、原告の係争年分の所得金額(事業所得)を実額で計算することはできないのである。そして、これを被告のした合理的な推計方法でもって計算した結果は前(四)のとおりであるから、その所得金額の範囲内で別表1のとおり所定の計算をして出された本件更正、決定処分(但し、裁決後の金額)は適法である。

4  以上のとおり原告の本件各処分に係る各違法主張はいずれも理由がない。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求のうち、本件更正処分中税額一一三万四四〇〇円を超える部分及び五万六七〇〇円を超える本件決定処分の取消を求める請求部分を却下し、原告のその余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西池季彦 片岡勝行 戸田彰子)

別表1ないし5<略>

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